デカダンス

日記のような、短編のような、詩のような、俺

はなくそ

この前、ファミレスのバイトで、ステーキを切っている最中に左手の中指の腹を深く切った。そこまで痛くはなかったが、血が止まらなかった。隣にいた吉田(よしだ)にバレないように、指を隠しながら、しばらくの間料理を作り続けていたが、血がトッピングされた特製カルボナーラはさすがに異様だったらしく、切ってから約10分後にようやく気づかれた(血は流れっぱなし)。吉田は呆れ顔で「早く止血して」と言って、俺に絆創膏だけを手渡すと、急いで料理を作り直し始めた。やっちまったなぁと思いつつ、申し訳ないとは思えず、血を流しすぎたせいか、すごく頭がぼんやりとしてきた。あぁあとため息をつきながら、指を圧迫していたら、吉田が俺のエプロンを指差して失笑した。何笑ってんだこのやろう、と思いながらも、見てみると、真っ白だったはずのエプロンが濁った赤色に染まっていた。さながら、殺人コックで、確かに少しだけ面白かった。

 

指を切ったせいか、もしくは喉からの風邪をひいたせいか、蓄膿のせいか、最近はギターが思うように弾けず、禁煙中の妊婦並みにイライラオラオラしている。強がって放ったギャグはだだスベりするし、O型だと思っていた女の子はA型で、B型だと思っていた男はA型だったし、図書館の返却期限も過ぎてしまうし、シャンプーを変えても髪はちんげのままだし、ユニクロで買った灰色のワイシャツを着てみるも、同期の女の子を苗字のさん付けでしか呼べないし、むしゃくしゃしすぎて、gwのバイト帰りに、一人で居酒屋に入って瓶ビール飲んでたら、大人たちに変な目で見られて、めちゃくちゃ惨めでダサかったし、大学からギターを始めた奴にいつの間にか追い抜かれてたし、ズボンを逆さに履いちゃうし、俺はやっぱりはなくそだった。

 

雨が降っている。

 

今日は、老人ホームで出張演奏をしてきた。俺の目の前にいた、車椅子に座ったヨボヨボのばぁちゃんが始まってすぐに寝始めたので、全然緊張はしなかった。そのばぁちゃんは、北国の春という演歌を弾き始めると、急に起きて、手拍子を打ちながら楽しそうに歌い始めた。重度の認知症で、無理やり辺鄙な病院に入れられて、孫である俺の名前を忘れたまま、去年の今頃に死んでいった祖母を思い出した。彼女も演歌が好きだった。晩年は小さな喫茶店のママをやっていた。最近やっとコーヒーが飲めるようになったのに。いつもはくだらないギャグばっかり言ってる親父が、涙ながらに言ったボロボロの弔辞がダサくて、締まらなくて、しっかりしろよって思いながら、俺も泣きそうになっていた。

 

でかいアンプでエレキギターをかき鳴らしていた頃は無敵って、感じだった。パイプ椅子に座って、クラシックギターをポロんポロんって弾いてる今は素敵って感じ。