デカダンス

日記のような、短編のような、詩のような、俺

愛に飢えて飢えて

 あれは高3の冬、もう少し正確に言うと、センター試験が終わった1月末のことだった。

 

 その日は、二次試験の講習を受けに、朝早くから、一人で学校に来ていた。科目は英語だったか、数学だったか、覚えてないけど、教室の中が異常に寒かったっていうのは覚えてる。暖房が立ち上がったばかりだったのだろうか。

 

 この時の俺が、どんなことを考えて日々生きていたのか。まるまる一年、と言っても、途中でゲームやギターに逃避していた時もあったが(お母さんにこっぴどく叱られた)、ほぼ一年、勉強だけに費やしてきて、やっと、第一関門のセンターを終え、残すところ、二次試験のみとなっていたあの時、俺の心を占めていたのは、センターでまずまずの点数をとったことに対する自信と、ここまできて落ちたらどうしようという、とてつもなく大きな不安だった。

 

 その相反する二つの感情が組み合わさって、虚無感というか、灰色の気持ちというか、そういったなんとも形容しがたいものを作り出していた。今思えば、そこは、ネテロがたどり着いたような、静かな静かな境地だったのだろう。もう二度と、あんな精神状態にはなれないだろうし、なりたくもないが、俺は、そんな白黒の世界の中で、全く見えてこない未来に向けて、進んでるのかも分からないのに、トボトボと毎日を歩いていた、そして分からないままでも歩き続けてくれたから、今、俺はここにいられるのだろう。自分に「ありがとう」なんて言えない。笑いながら「お前、ブッサイクやな」とは言えるけど。

 

 そんで、昼前に講習を受け終わり、荷物をまとめて、一人玄関を出た。

 

 まだ、街は雪景色で、顔に吹き付ける風は、冷たいと言うより痛かった。油断すると、すぐにスッテンコロリん、赤っ恥、といった塩梅で、歩く道はカチカチに凍っていた。小ぶりの雪がしんしんと降っていて、厚い雲の向こうで太陽がわずかに光っているのが見えた。ネックウォーマーに顔を沈ませて、小さく足を前に出した。

 

 玄関と、校門までのちょうど半分ぐらいのところまで歩くと、「お疲れ様」と囁くような声がした。驚いて、顔を上げると(俺は地面を見ながら歩く癖がある)、そこにマフラーをした女の子が一人で立っていた。玄関を出た時から、誰かが立っていることには気づいていたが、目が悪いので、それが誰なのかは分からなかった。声をかけられなかったら、絶対に横を通り過ぎていた。声をかけたのは、クラスメイトの地味な女の子だった。周りには、誰もいなくて、ヒューという風の切る音だけが聞こえていた。

 

 きっと誰かを待っているのだろう。そう思って、「お疲れ」とだけ言って再び歩き始めたら、その女の子は、何も言わずに、俺の横にちょこんとついて、一緒に歩き始めた。なんだこれ? 俺の頭の回転数が、一気に跳ね上がった。

 

 緊張してたんだな俺、何喋ったか全然思い出せないわ笑。ただ唯一覚えてる会話の内容が、テルマエくんのことについてだった。テルマエくんと言うのは、俺の友達。そして、テルマエくんは、その女の子が入ってる部活(新聞局)、に短い間だが入っていた。早い話、テルマエくんは、その女の子と俺のただ一人の共通の知人だったわけ。そんでもって、このテルマエくんと言うのはなかなかにダメな男で、新聞局をやめる時に、詳細は知らないが、一悶着を起こし、その女の子を泣かせてしまったらしい。テルマエくん曰く、「俺は何もしてないのに、あいつが勝手に泣いた。頭おかしいぞあの女」とのこと。人は勝手に泣くかね、コナンくん。

 

 そして、その女の子が言うには、「私、テルマエくんと色々あったのに、そのことに全然気にしないで、喋ってくれたのが嬉しくて、ありがとうって言いたくて、今日待ってたの」とのこと。確かに、君とは何回か喋ったことがあるような気がするけど、いや、聞くに聞けないし、そんなことはっきり言ってどうでもいいでしょう。と思った。てか、どんだけ溜め込んでたんだよ。コナンくんじゃなくてもわかるよ、嘘だなって。

 

 その時、あぁつまりそう言うことなのかと、頭の中で一つの解が導かれた。

 

 いかんせんこんな、絵に描いたような青春の一ページに出くわしたのはそれが初めてだったので、俺もめちゃくちゃに緊張していたが、女の子の方は俺以上に緊張している様子で、言葉を度々詰まらせたり、早口になっていたので、俺はそこまでテンパりはしなかった。なんてったって、俺はこの時、先に書いた静かな境地にいたからね。言葉を探し探しに喋る彼女がちょっとだけ可愛く見えた。

 

 その女の子は、スカートを規則通りに履いて、黒髪を後ろで一つに結び、休み時間は、大抵、文化部員らしく本を読んでいた。決してブサイクではなかった。記憶の美化を疑うかもしれないが、どうか信じていただきたい。肌はすごく綺麗で、白かった。太ってもいなかったし、目もそんなに小ちゃくなかった。眉毛は濃いめ、と言うか全体的に顔は濃いめの、どちらかというとハーフ顔に近かった。ただ、化粧っ気と言うか、女っけと言うか、そう言うものが一切なくて、おまけに元気もなくて、絶対にモテるタイプではなかったと思う。本当は夢見る女の子になりたいけど、なんだか、なりきれなくて、悶々としてそうな感じの女の子。俺は彼女いない歴=年齢の正真正銘の童貞なので、女の子を描写しようとすると、どうしてもチンケなモノになってしまうのが悔しいんだけど、俺も太宰みたいに陰のある女をうまく描写できたらいいんだけど。ごめんあそばせ。

 

 校門を出ると、坂がある。ゆるくて、長い坂。並木道って言うのかな、坂には大きい木が植えられていて、その木は四季折々に変化する。冬は、葉が落ちて、素っ裸になった寂しい木になる。でも、白い雪と相性が良くて、意外と綺麗だったりする。電車で帰る人は坂の下にある交差点を直進して、バスで帰る人は左におれる。俺は、電車、その女の子はバスだった。

 

 坂を下りきって、交差点に着くと、その女の子は、焦ったような顔をして、「ラインを交換したい」と言った。俺は「いいよ」と言った。実はキリスト教なんだって言われても全然納得できるぐらい不思議な女の子だったので、なぜか、クラスラインにいなかった。上着のポケットからケータイを取り出して、ラインのアイコンをタッチして、さぁいよいよ、QRですよ、って時に、俺のケータイの電源がバタッと落ちた。充電はあった。でも、冬の外でケータイを出すと、急に電源が落ちてしまうことがある。信じられないかもしれないが、札幌ではそれが時たまある。それぐらい寒いの。

 

 あぁついてねぇなぁって思った。女の子は、エ〜〜〜と大きな声を上げながら、悲しそうな、そして、可笑しそうな、よく分からない顔をした。俺はそれを見て、笑ってしまった。そして、ちょうど、お迎えですよと言わんばかりに、青いバスが来た。俺は、「ごめん、今度、ラインのid教えるね」と言った。女の子は「うん」と言って小さく頷くと、交差点を左に折れていった。「じゃあね」って言って手を振りあった。

 

 

 

 

 

 それから何日か経った後で、ラインのidをノートの切れ端に書いて、その女の子に渡したんだけど、どうやらidから友達登録できるように、設定されてなかったらしく(このバカタレ)、いや、その女の子の方がもういいやって思ったのかもしれない。結局、その女の子とはそれっきり何も。二次試験が終わった後、ケータイが本当にぶっ壊れて、データが全て飛んだ。だから、もしあの時、その女の子とラインを交換できてたとしても、すぐになくなってしまう運命だった。その時、なんだか、神様というものが本当にいるような気がした。「ぶち殺すぞゴッド」

 

 

 なんでこんなことを思い出したのかと言うと、こないだtetoのライブを見に行った時に、この女の子に似ている人がいて、その子を見て、いろいろと思い出してしまった、というワケ。高校三年間で、俺が唯一確かに感じた、女の子からの好意。最近本当に、周りの女に相手にされず、挙げ句の果てにはいいように使われ、女ひでりの限界に来ていて、秋の夜長もそれを助長して、愛に飢えて飢えて、イかれてしまった俺は、思い出の中の女の子に手を伸ばしてしまった。本当にダサくて、都合のいい、男です。

 

 愛とは一体なんなのだろうか。埋まらない心の隙間を満たす羊水? 孤独を誤魔化す温もり? 着飾った豚の欲望? 頭の悪い俺には難しいことはよく分からない。けれども、一つだけ知っていることがある。それは、HのあとはIだってこと。

 

 

youtu.be

長かったね。ごめんよ、のどかさん。